会報「北のみなと」No.54より
▼ はじめに

 2001年9月11日の米国同時多発テロは、あまりにも大きな惨劇 として皆様方の記憶に残っておられることと存じます。
 これを境に、テロ対策は国際的に重要かつ深刻な問題として 受け止められ、国際海上輸送分野においても各国が連携し、安全 確保に努めることが喫緊の課題となってきました。
 国際海事機構(IMO)とは?
設立:1958年
本部:イギリス(ロンドン)
加盟国:158カ国
目的:海上の安全、能率的船舶の運航、海洋汚染の防止に関し、最も有効な措置の勧告等
 海上人命安全条約(SOLAS)とは?
契機:タイタニック号の海難事故
締結:1914年
内容:船舶構造、無線通信、遭難者の救助、危険物の運送、海上の安全性を高めるための特別措置(ポートステートコントロール)を含む。
 国際海事機構(IMO)は、テロ対策の緊急性に鑑み、2002年12月に海上人命安全条約(SOLAS条約) を改正し、この改正SOLAS条約が発効する2004年7月1日までに条約の締結国に対し、国際航海船舶と 国際港湾施設の保安対策強化を義務付けることとしました。
▼ 新たに国内法が整備されました

 条約の締結国である我が国も、改正SOLAS条約を国内的に担保するため、本年4月、「国際航海船舶 及び国際港湾施設の保安確保等に関する法律」(略称:国際船舶・港湾保安法)を成立させました。
▼ 保安対策が義務化される船舶

 国際航海に従事する下記の船種に対して本法律が適用されることになります。
1.旅客船
2.総トン数が500トン以上で旅客船以外のもの
▼ 保安対策が義務化される港湾施設

 本法律の施行規則では、次のいずれかに該当する国際埠頭施設に対して保安対策を義務付けています。
1.国際航海船舶である旅客船の利用が年間1回以上あること。
2.旅客船以外の国際航海船舶の利用が年間12回以上あること。
▼ 北海道は重要港湾が対象

 本法律の対象となる港湾は、国内で112港あり、この内道内では、重要港湾以上の12港が対象となります。
特定重要港湾(2港)室蘭港、苫小牧港
重要港湾(10港)小樽港、函館港、釧路港、留萌港
稚内港、十勝港、石狩湾新港
紋別港、網走港、根室港
▼ 保安規程の策定、承認、登録

 国際埠頭施設の施設管理者(民間を含む)は、自ら「埠頭保安規程」を定め、制限区域を設定するとともに、 この制限区域内外で実施する保安対策を文書化しています。
 国際埠頭施設前面の水域の制限区域は、港湾管理者が一括して、「水域保安規程」を定めるため、同様の文書化 作業を行っています。
 保安規程の文書化は、ISOシリーズのシステム文書の作成作業をイメージして貰えれば結構かと思います。
 この「保安規程」は、国土交通大臣又は北海道開発局長の審査・承認を得た後、IMOに登録され、国際的に 認知されることになります。
 一つの「埠頭保安規程」には、複数の国際埠頭施設が包含される場合があるため、道内では約60の「埠頭保安 規程」が承認・登録されています。
▼ 港湾の保安(テロ)対策

 国際埠頭施設における保安(テロ)対策の概念は下図のとうりとなります。
 ハード対策としては、フェンス、ゲート、保安照明、監視カメラ及びモニター監視設備が整備され、これ を立哨や巡回警備等の人的対応で補うという形をとっています。
 モニター画面については、来年以降に国の機関もアクセスし、情報の共有化を進めることとしています。
▼ 保安(テロ)対策の推進

 港湾の保安(テロ)対策は、施設管理者(民間を含む)が選任した埠 頭(水域)保安管理者を中心に進められます。
 ただ、埠頭(水域)保安管理者だけでは保安対策業務全般を遂行でき ないため、所属する組織や警備員は勿論、国際埠頭施設内で日常的に荷 役業務を行う方々も保安従事者として位置付け、連携を図っていくこと としています。
▼ 制限区域への立入制限

 保安対策を実施する埠頭には、制限区域にフェンスが張られ、出入口 にはゲートが設けられています。
 ゲートでは、立哨警備により人や車両の出入り管理が行われます。

 港湾によっては、制限区域内で工 事を実施したり、制限区域が作業ヤードになったりしている所がありま すが、工事関係者であっても制限区域に立ち入る際は身分確認を求めら れることがありますのでご協力をお願い致します。
▼ 北海道開発局の役割

 ここで少し開発局の宣伝をさせて頂きます。

 当局は、施設管理者(民間を含む)が策定する保安規程を審査・承認す るとともに、インターネットを介してIMOに登録する作業を行ってい ます。また、保安規程に記載された事項が確実に実行されているかどう かの立入検査も行います。日常は港湾管理者、海上保安部、海事局等か ら寄せられる船舶情報の整理分析や情報伝達にもあたっています。
▼ 北海道開発局の体制

 港湾の保安(テロ)対策業務を遂行するため、港湾空港部港湾建設課 に港湾保安保全推進官、港湾保安保全専門官及び港湾保安保全係長が新 設されました。
 また、港湾行政課からは小職の外、2名の係長が併任発令され、この業 務に携わっています。
 10月1日からは、小樽、室蘭及び釧路開発建設部築港課にも港湾保安 保全係長が新設され、来年度は港湾部門があるすべての開発建設部に このポストの設置を要求し、徐々に組織体制を整備していくこととして います。
▼ おわりに

 北海道で港湾の保安(テロ)対策 に関する説明会が開催されたのが昨年の3月でした。  「とんでもない仕事が舞い込んできた。」というのが、当時の率直な 感想でした。
 国内法が整備されていない中で、文字どおり「手探り」状態で業務を 行う日々が続きましたが、組織内の支援、港湾管理者や民間会社の方々 のご協力で、何とか改正SOLAS条約が発効する本年7月1日迄に、 それまで申請のあった保安規程を審査・承認し、すべてIMOに登録す ることができました。

 関係各位には、本誌上をお借りし、厚くお礼を申し上げます。

 さて、テロ対策は、港湾にフェンスや監視カメラを設置したからとい って万全と考えている訳ではありません。警察や海上保安部等で持って いる情報、港で働く人々や一般市民から寄せられる情報を共有し、地域 でテロを許さないという雰囲気や体制を作り上げてこそ、初めて有効な テロ対策になり得るのではないかと思っております。
 本誌の読者は、港湾に関わりの深い方が殆どと聞いております。港湾 施設の利用面ではいろいろご不便をお掛けするかも知れませんが、今後 のご協力、ご支援をよろしくお願い申し上げます。