会報「北のみなと」No.55より
 私は、現在57歳。剣道を始めたのは30歳で、自分 の子供が稽古をしている姿を見て興味を持ち、剣道 の道に入りました。長男や次男と剣道を通し共通の 話題を持ち、そこから発展し社会人になった現在も コミュニケーションはスムーズです。子供達は中学 生で初段を取り今は休んでいます。

 さて私は昭和53年から剣道を始め間もなく初段を 取り、平成3年には五段まで取得しました。
 自分は 五段で十分と思っておりましたが、先輩指導者から 「子供達の指導の為にも、自分の為にも、上位を狙 う勉強をし挑戦しなくてはいけないのではないか」 と言われ、私は一念発起し平成10年から六段に向け て稽古を開始しました。
  稚内の稽吉はもとより留萌・ 旭川・札幌と機会ある毎に休日を利用し稽古に出か けて行きました。

 正しい着装・姿勢・気勢・正しい 打ち(竹刀の打突部で打突部位を刃筋正しく打突す ること)。呼吸法・打突の機会(相手にスキがあっ た瞬間)・体捌き。そして残心(打ち切った後、直 ちに攻撃を出来る体勢)これらの事を稽古で体に覚 えさせなければなりません。常に自分より高段者又 は、自分より強い人と積極的に稽古を重ねました。

 稽古開始から3年目、平成12年の11月東京・日本武 道館で初めて審査に挑戦。平常心を無くし見事に落 ちました。合格率16%だったと思います。 気持ちを切り替え、以前より厳しい稽古を始めま した。翌年の夏、札幌で2度目の受験に失敗し、今 まで稽古に協力して戴いた先輩、仲間に申し訳なく、 さらに、いつもの自分を出せなかったことが本当に 悔しく、何がなんでも六段に合格したいと独り心に 誓いました、


2003年7月28日
第32回稚内剣道練成大会 日本剣道披露
打太刀 目時幸雄 錬士六段(左)
仕太刀 橋本勉 錬士六段(右)
 その年の11月の東京。日本武道館審査に向け、さ らに厳しい稽古を重ねました。しかし私の身体に異 常が出て腰が曲がらなくなり、自分で靴下もはけない状態になりま した。MRI検査をすると脊髄の一番下の軟骨が無くなっており、 骨と骨がぶつかり激痛が走ったのです。医師いわく「目時さん、軟 腎が老化現象でつぶれたのです」との事。 私は剣道やゴルフ・スキー等 やっており体には自信がありましたから、かなりショックでした。
 でも医師は、「脊髄の周りの筋肉 を腹筋・背筋などで強くする事によりカバー出来る。そんなスポー ツ選手は沢山いますから頑張ってください」と。私はその言葉を信 じて、周囲の言葉に耳を塞ぎ、ひたすらストレッチと稽古に邁進し ました。それ程六段に合格したいと思う気持ちが強くなっていって おりました。

 とうとうその日がやって来ました。3回目の審査である。「今度 は絶対に合格をする」そんな気持ちで審査に向かいました。たぶん 頭から"オーラ"が出ていたのでは…  試合では今までの稽古を十分に 出す事が出来た。

だから合格発表 で自分の番号がはっきり見えた、その時、3年間の 辛い稽古・先輩の顔・仲間の顔・そして妻の協力に 対し「ありがとうございました」の気持ちが込み上 げ、周りがかすんで見えなくなってしまった。妻は 「今度合格しなかったら審査を止めさせよう」と決 めていたと後に語った。平成13年11月 54歳 東京 日本武道館で六段合格・受験者1529名・合格者297名・ 合格率19.4%
稚内剣道連盟道場にて稽古風景
 この経験は今、子供達との稽古の中で活かされて いると思います。

 剣道の良いところは、礼儀を重んじ・感謝の気持 ちを忘れない心を育てる。例えば道場出入りの時の 挨拶・靴の片づけ方・稽古着(ひもの結び方)の着 装が身に付き、自分の事は自分で出来るようになる。
また、稽古で相手を打つ時も自分で痛さを体験して いる為、学年に合わせて調整しながら打つと言う相 手を思いやる心が自然に育てられている。夏の暑い 稽古で防具を付けたり、冬の身を切るような寒さの 中で、はだしで稽古をするなど、本当に厳しい稽古 にも負けない頑張る根性も自然に備わると自負して おります。

 最近、テレビ・新聞等でいろいろな傷害事件が報 道されている。「我慢を出来ない人が多くなったの ではないか?」そんな気がします。
 スポーツを通じ て心の強い人、我慢する心を養った人が多くなれば それらの事件も減少されるのでは。「鉄は熱いうち に打て」といいますが、子供の時に覚えさせなけれ ば大人になってからでは遅いと思います。
 柔らかく 養生した苗床に種をまき、丹精して育てるとやがて 若芽が吹き、多くの愛情を受けた青葉は天に向け 真っ直ぐに成長していきます。

 今は子供達と自分の体力に合わせ、若やいだ気持 ちで高年齢まで出来る剣道に励んでおります


全日本剣道選手権大会・剣道世界選手権大会 2000年優勝者
栄花直輝六段 北海道警察勤務(右)と共に
稚内少年剣道 指導講習の為 来稚