会報「北のみなと」No.59より

  よおおっしぃっ! いけえぇーっ!!!

 掛け声と共に、砂浜から自作艇で初めて海に漕ぎ出したのは2005 年8月17日。去年、2ヵ月半の時間をかけて作ったシーカヤックの製作記と、そこに到るまでの想いなどをご紹介させていただきます。

●大いなる「lNAKA」project

  私の住む「留萌管内」はハッキリ言って田舎なわけですが、田舎ゆえ海でも山でも川でも15分もあればドコでも行くことが出来ます。都会にいたら決してこんな恵まれた環境は無理なわけです。実はこれは凄く恵まれた事じゃないかとも思っていました。田舎には、都会には「決して」真似の出来ない「田舎だからこそ」の楽しみ方があるはずなのに、住んでいる自分達が良さを知らないんじゃないか?楽しんでいないんじゃないか?せっかく恵まれた環境が身近にあるのだから、遊べる・体験できる場所を作りたいと。それも親子で一緒に遊べたらいいな・・・と、いう想いが強くなっていきました。
   たまたま昨年、業界の若手の会の会長をお受けして何か事業を考えていた事もあり、ここ何年かの田舎に対する想いを、大いなる「lNAKA」projeotと題して海・山・川で親子で遊べる事業としてやらせて貰う事になりました。

●シーカヤックって高い・・・なら作る!

  せっかく海が近くにあるんだから是非、シーカヤックを体験させてあげたかったんですが、人に楽しさを伝えるのに自分達がやった事が無いのは本末転倒との想いもあり、まず自分達が体験してみようという事になったんです。シーカヤックって、いざ購入すると結構高いんですよ・・・この辺がやってみたいと思っても中々手が出せないところでしょうか。
  何かいい手は無いかと、ネットで色々と情報収集しているうちに、自作又はキットなら結構、手間はかかるけれども手頃な金額で出来そうな事が分かってきました。元々モノを作るのが好きなのと、金額的な理由で手が出ないという人達への参考にでもなればと、私自身が手頃な価格のキットを作ってみる事になりました。
  市販品は通常ポリエステルかFRPの艇が一般的ですが、私の購入したのは3万円ほどの耐水ベニヤ製のキット・・・耐水ボンドと綿テープで、うまく作業時間が取れれば「6日」で完成出来るらしいのですが・・・どうにも心配だったので補強の意味と出来上がりの見栄えを考え、エポキシ樹脂とガラスクロスも使用する事にしました。
  キットが届き、開封してみるとパーツごとにレーザーカット済みの耐水ベニヤが18枚。パーツそれぞれに部品番号が記されていて、それを張り合わせたりしながら組上げていくシステムです。大きなプラモデルの感覚と言えば分かり易いでしょうか。しかしながら完成時は全長4.5bになるシロモノ、パーツの数は半端じゃありません・・・
  パーツ同士をボンドで接いで長さと幅と厚さを稼ぐのですが、ボンドが硬化するまで待っていなければならないし、二液混合タイプのボンドやエポキシ樹脂は主剤と硬化剤の配合比をちょっと間違うと硬化しないし、クランプ等で時間をかけて圧着しなければならない部分も多々あるし、全体の研磨にも時間がかかるし、ガラスクロスの研磨では細かな削りカスが肌につくと熱いシャワーで洗い流すまでチクチクする為、夏の暑いさなかツナギにマスクにゴーグルを着用して作業をしないとならないという、過酷な場面もあり、一気に作業を進めるわけにもいきません。そしてなにより最大の問題は仕事や用事や各種イベント等の為、計画的に製作の為の時間が思うように取れない事でした。この辺の時間のやりくりがうまく出来れば、もう少し完成が早かったのでしょうが・・・ 


完成間近かなシーカヤック

  でもそんな厳しい製作中にも嬉しかった事が色々ありました。ただのベニヤ板から少しずつ形になっていくのは感動モノですし、私が製作しているのを聞きつけて道具を貸してくれたり、手伝いに来てくれる人が居たり。中でも一番嬉しかったのは最初はベニヤ板なんかでホントに出来るの?って感じで遠巻きに覗くだけだった ウチの2人の娘達が作業が進むにつれて、自分から手伝いを始めてくれた事です。普段は仕事や付き合いを理由に中々一緒に過ごす事も出来なかったので、これは私にとって非常に嬉しい出来事でした。一生懸命にやっている姿も見せることが出来ましたしね。

 ●鳴呼、感動の進水式!

  失敗や修正を繰り返し、そんなこんなで約2ヵ月半・・・。
  遂に完成しました! 感動の進水式には家族はもちろん、手伝ってくれた仲間達も駆けつけてくれて、儀式と称してシャンパンを抜いてくれたりして、みんなが見守る中、我が自作のシーカヤックは海原に無事に進水。
  最初は戸惑っていたもののなれるに従ってバランスも取れてきて、艇は安定して真っ直ぐ音も無く進んでくれました。この瞬間は言葉では伝える事が出来ないほどの感動でした。でも本当に・・・浸水式にならなくて良かったです。

  今の時代、お金さえ出せば欲しい物は簡単に手に入る時代ですが、そうじゃなくて手間をかけて作る楽しみ、そして何よりも手間ひまかけて作った艇が、ちゃんと浮かんだ時の言葉にならない喜びと感動。時間がとれなくて製作は大変だったけど「お金」では決して得ることの出来ない大切な「時間」を過ごせたと思います。そしてこれからは、そんな体験の「場所」を色々な形で作っていきたいな、と思います。

  それでは、いつか海の上で逢いましょう。