会報「北のみなと」No.60より

1.はじめに
   ウトロ漁港は、知床半島のオホーツク海側に位置し、我が国有数のサケ・マスの生産流通基地であり、外来船の休憩・避難や知床観光船及び遊漁船等の発着港としての役割を果たしている。
  しかし、本漁港は港内が狭隘化しているとともに陸揚作業に必要な背後用地が不足しており、作業の非効率化や漁獲物の鮮度維持等の課題が顕在化している。
  これらに対応するため新漁港区の展開を推進しており、現在新たな埠頭と沖合に島防波堤を建設中である。
  島防波堤の整備により、静穏度向上による陸揚作業の効率化や安全性が確保される。

2.検討経緯
  これまでの島防波堤の構造断面は、大水深・高波浪海域に建設されるため、波力に対して自重で安定を確保するRCケーソン式混成堤が採用されていたが、大断面となり、その整備に多くの費用を要していた。
  そのため、建設コスト縮減に対する要請が高まり、新たな経済的防波堤断面の検討を行った。
  構造形式を選定するにあたり検討した経緯は以下の通りである。

@網走港乾ドックの活用
  これまでのRCケーソンの製作費においてフローティングドック損料の費用が大きかったため、網走港乾ドックの使用も可能になったことから、乾ドックの水深で製作可能なケーソンとする。
Aケーソン重量を軽量化
  乾ドックで製作するには、ケーソン重量を軽くし、吃水を浅くする必要があるため、ハイブリッドケーソンとする。
 B滑動抵抗力の増大
  ケーソン重量が軽いため、波力を鉛直下向きの抵抗力としてケーソン自重に追加できる半没水上部斜面堤とする。

  以上のことから最終的に半没水上部斜面ハイブリッドケーソンを採用するに至った。


施工位置図
 ハイブリッドケーソンについては、道内での実績は少ないものの、全国では数多くの実績がある。 半没水上部斜面堤については、平成15年に東北地方整備局仙台港湾空港技術調査事務所より、「半没水上部斜面ケーソン堤の設計・施工指針 (案)」(以下、指針(案)と称す) として取りまとめられている。 半没水上部斜面堤の特徴は以下の通りである。

@ケーソン本体及び上部工が傾斜し ており、作用波力の水平成分の減 少及び鉛直成分の増加により、滑 動に対する抵抗力が増大し、ケー ソン幅の縮小が可能である。
Aケーソン幅の縮小により捨石マウ ンド幅を縮小できる。

HBケーソンイメージ図


往来との比較図

3.水理模型実験
 波力分散効果については、水理模型実験により確認されているが、施工事例も少なく、指針(案)にも水理模型実験により確認することが望ましいという条件もあることから、本断面においても旧・北海道開発土木研究所(現・寒地土木研究所)で水理模型実験を行った。
  実験は、波高、潮位等を変化させ、波力分散の理論値と実測値との比較を行い、

各ケースでの波力の分散効果を確認している。 また、波力実験のほかに港内伝達率、港外反射率やマウンド被覆材及び根回方塊の耐安定性、ケーソン滑動実験を行い、水理機能や耐波安定性を検証し、防波堤構造の有効性について確認した。


4.施工方法の検討
  一般的にハイブリッドケーソンは、側壁、隔壁、底版を構成する鋼殻を工場で組立製作した後に、その外側に各層毎に鉄筋を組立、コンクリートを打設して積み上げていくという工程で施工を進める。
   しかし、網走管内にはケーソン鋼殻を製作する工場がないため、施工性や経済性などを総合的に比較検討し、鋼殻のみを管外の工場で製作し、その後、網走港まで海上運搬し、乾ドックで鉄筋組立、コンクリート打設する方法を選定した。






           (図−2  工事費比較)



                (図−1  断面比較)

5.コスト縮減効果
   これまでのRCケーソン式混成堤と今回検討した半没水上部斜面ハイブリッドケーソン堤の断面と工事費の比較を図−1、図−2に示す。 半没水上部斜面ハイブリッドケーソン堤については、生乾ドックでの製作が可能になり、フローティングドック損料が不要となったことや半没水上部斜面堤の採用により、ケーソンだけでなく防波堤断面全体の縮小化が可能となったことから、防波堤延長1mあたり約390万円(直接工事費べ一ス)のコスト縮減が図られており、約22%のコスト縮減率となった。

 

6.おわりに
今年度よりケーソン鋼殻2函の製作に着手しており、来年度、海上運搬し網走港乾ドックでコンクリート部の製作を予定している。
  ハイブリッドケーソンでの半没水上部斜面堤の施工実績が無いため、乾ドックでのコンクリート打設や据付時など細心の注意を払い、施工していく所存である。