会報「北のみなと」No.68より

北海道開発局
港湾空港部長
 藤田 佳久

就任挨拶


−経済のグローバル化と
               北海道の開発−

はじめに

6月25日付で北海道開発局港湾空港部長に就任しました。北海道勤務は初めてです。どうぞよろしくお願いします。北海道港湾空港建設協会並びに会員の皆様には、常日頃から私どもの実施する港湾空港整備事業に対しご支援とご協力を頂いておりますこと厚くお礼申し上げます。

紙面をお借りしまして、就任後 2ヶ月が過ぎたこの時点での北海道の開発について思うところを述べてみたいと思います。なお、ここでの内容はあくまでも個人的な見解であることをおことわりしておきます。

-豊かさの中の貧困-

  現在は世界同時不況のまっただ中にあり、日本も不況にあえいでいます。これに対し政府は総合経済対策を実施しつつあります。速報値では、今年4月から6月の実質GDPは前期比0.9%増と、5期ぶりにプラスに転じました。まだまだ本格的な景気回復とは言えませんが、明るい兆しが見えてきました。引き続き経済対策を強力に実施し、景気回復を本格的な軌道に乗せていく必要があります。

  さて、この経済全体の不況に加え、日本で貧富の差が拡大していることが大きな問題となっています。一億総中流と言われた時代とは様変わりです。経済不況とはいえ、世界第2位のGDP規模を誇り、世界最大の債権国で世界屈指の経済大国である日本において、明日の生活に不安を抱える多くの人々がいるというのは驚きです。まさに「豊かさのなかの貧困」です。この言葉は、同志社大学の浜矩子教授がその著作「スラム化する日本経済」(講談社十α新書)のなかで書いている言葉です。なぜこのような事態が発生したのでしょうか。それは経済がグローバル化し、賃金の安い外国の労働者と我が国の労働者が雇用を巡って競争する状況になったからです。産業や労働者が国境を越えて自由に移動できなかった時代は、むしろ国内賃金は下方硬直的でした。ところが現在は、我が国のメーカーは諸外国のメーカーとの激しい価格競争にさらされています。そしてコスト削減のターゲットが労働コストです。現在はまさに、低賃金を競い合う時代なのです。我が国でも経済界の要望を受け、派遣労働の規制緩和が行われました。その結果、雇用者の3分の1は非正規雇用者となっています。このような賃金の押し下げ圧力が貧富の差の拡大の要因と言えるのではないでしょうか。生活苦こあえぐ人達に対するセイフティネットの拡充が求められています。

-地域格差の拡大-

  このような国民における貧富の差を拡大した経済のグローバル化は、地域間格差も拡大する方向で働きます。国際競争力を持つ企業を多く抱える地域は今後ますます発展するでしょうし、そうでない地域は衰退していきます。戦後これまでの地域開発は、欧米に対し遅れている社会資本の整備、過密過疎問題の解決、産業の分散の推進など国内で発生している問題の解決に主眼を置いてきました。これからの地域開発は、グローバル経済を前提に、各地域が世界と直接向かい合い、その特色を活かしながらいかにその地域を発展させていくかが問われる新たな局面に入ったと言えます。過度な地域間格差の存在は社会を不安定にし、国全体の衰退につながりかねません。グローバル経済下における地域開発は、引き続き国の責務であると考えます。

-北海道開発のこれから-

  昨年7月に、第7期北海道総合開発計画が閣議決定されました。北海類開発の戦略的目標として、「アジアに輝く北の拠点〜開かれた競争力のある北海道の実現」、「森と水の豊かな大地〜持続可能で美しい北海道の実現」、「地域力のある北の広域分散型社会〜多様で個性ある地域から成る北海道の実現」の3つがあげられています。開かれた競争力のある北海道の実現とは、グローバルな競争力のある自立的安定経済の実現をすることにあります。また、3つの戦略的目標を達成するための横断的な主要課題として、内外の交流を支えるネットワークとモビリティの向上を図る施策、安全・安心な国土づくりを図る施策に取り組むことがあげられています。

  経済のグローバル化は両刃の剣です。世界市場を獲得できた地域はこれまで以上に発展しますが、そうでない地域はこれまで以上に衰退する危険があります。地域経済の優劣がはっきりする時代です。国としては、経済グローバル化の荒波が直接地域経済に押し寄せないよう防波堤を設けることを考えなければなりませんが、北海道を含む各地域は、グローバル経済下での独り立ちが求められていることも事実です。経済のグローバル化により、地球上に辺境の地はなくなったと言えます。単なる価格競争ではなく、北海道の持つ技術力、品質力、ブランドカ、地理的優位性を活用し世界市場で勝負できるリーディング産業を育てていくことが不可欠です。そしてそのために港湾、空港という資源をどう活かしていくかが問われています。経済の自立化は容易な道ではありませんが、北海道関係者の力を結集すれば道は拓かれるものと信じています。

  最後になりましたが、貴協会並びに会員の皆様のご活躍とご発展を祈念申し上げます。