会報「北のみなと」No.71より

北海道開発局
港湾空港部長
   栗田 悟

就任挨拶

−これからの北海道の
                 港湾・空港行政−
はじめに
  6月1日付けで、北海道開発局港湾空港部長に就任しました。
  北海道港湾空港建設協会並びに会員の皆様には、北海道開発局の港湾・空港行政に対して、ご支援とご協力をいただいておりますことに厚くお礼申し上げます。
   私ごとではありますが、これまで北海道の港湾・空港行政に長く携わってきておりますが、前職は北海道開発局の事業振興部長であり、北海開発局が実施する幅広い事業分野に関わることができました。

  また、平成18年から平成20年の2年間は、港湾局の海岸・防災課長として、全国的な視点で北海道を見ることできました。これらの経験も活かし、港湾空港部長の職務を進めたいと考えておりますので、よろしくお願いいたします。
  さて、ご承知のとおり公共事業関係の予算は大きく削減されている状況にあり、平成22年度の北海道開発局が実施する港湾事業予算は対前年度比O.72、空港事業予算は対前年度比0.97となっているところです。
  また、現在、国土交通省港湾局では、「国際コンテナ戦略港湾」、「国際バルク戦略港湾」や「重点港湾(仮称)」の施策の検討が進められており、予算の削減に加えて、いわゆる「選択と集中」が大きく進められつつあります。北海道の港湾・空港行政についても、大きな変革を迎える時期であると認識しているところです。
  限られた予算の中、北海道の港湾・空港整備を効率的かつ効果的に進める必要がありますが、特に、「経済の活性化」と「まちづくり」という 2つの視点が重要と考えています。

-北海道経済を支える港湾・空港-

  北海道は長引く経済不況にさらされ、加えて、世界同時不況の影響により、経済活動が著しく停滞したところです。しかし、最近では、苫小牧港の外貿コンテナが回復する傾向にある等、貨物の荷動きに一部明るい兆しが見られています。これは、北海道経済が持ち直していることはもちろんのことですが、苫小牧港東港区の国際コンテナターミナルの整備により、本年4月より2隻同時荷役が可能となったことで、コンテナ船の待ち時間の減少等、外貿コンテナの荷役が効率化された効果もあると考えているところです。
  言うまでもありませんが、北海道の経済活動は海外を含めた道外との人や物の流れにより成立しており、四方を海に囲まれた北海道では主に港湾と空港を通じて経済活動が行われています。シンガポールの初代首相のリ・クワンユー(李光耀)は、「島国の経済レベルはその国の港湾と空港のレベルを越えることはない。」と述べております。今後、経済のグローバリゼーションが益々進展する中、港湾・空港が北海道の経済成長のボトルネックとならないように整備を進める必要があると考えています。
  例えば、現在、新千歳空港においては、航空機の遅延・欠航を減らし安定した運航を確保するため、航空機の防除雪作業のためのデアイシングエプロンの整備及びILS(計器着陸装置)双方向化のための用地造成を行うとともに、早朝出発便の増加等により不足している夜間駐機用のスポットを整備しているところです。

-まちづくりを支える港湾・空港-


  前述したとおり、港湾・空港のインフラ整備は、物流や人流の更なる効率化を図るものであり、北海道経済にとって重要であることはもちろんですが、加えて、各地域の「まちづくり」にも大きく影響すると考えています。
  例えば、苫小牧市については、苫小牧港の工事に着工した昭和26年の人口は約4万人でありましたが、港湾施設の充実により港湾貨物は順調に増加し、様々な企業の集積等により、平成21年の人口は建設当時の4倍以上の17万人、製造品出荷額では札幌市の約2倍となる1兆円に迫る規模となっています。また、石狩市についても同様であり、現在、石狩湾新港地域には約740社の企業が立地し、1万人以上の雇用を抱えています。札幌市から石狩市への通勤人口も増加し、平成17年には石狩市から札幅市への通勤人口を逆転し、もはや石狩市は単なる札幌市のベッドタウンではなく、札幌市とともに一大経済圏が形成されています。
  また、釧路港においては、釧路市の観光拠点であるフィッシャーマンズワーフMOOに近接して、旅客船夕ーミナルを整備中です。旅客船の接岸により、観光客や市民による賑わい空間が形成されれば、釧路市の観光振興に大きく寄与すると考えています。さらに、港湾は水産業の拠点としても重要な役割を担っています。特に地方の港湾では、地域産業における水産業のシュアが非常に高く、港湾整備が地域の「まちづくり」に大きく影響します。
  このため、港湾・空港を抱える市町の首長等とも、それぞれの地域が目指す「まちづくり」について意見交換を十分に行い、そのために必要な港湾・空港整備について長期的・短期的な視点で検討し、施設整備を進める必要があると考えています。

-おわりに-

  最後になりますが、廣井勇の著書「築港」の緒言について、私が現代語訳した一部を紹介いたします古 「私が思うには、港湾改修は国家の重大な事業であり、その建設の困難さは土木事業の中で最も高い。故に、この計画を立てるにあたっては、最も慎重に、最も周到に行い、百年にわたって間違いのないようにすることである。(略)技術者千年の栄誉と恥辱は、設計にある。これは用意の愼蜜(慎み深く行き届くこと) 遠図(遠大なはかりごと)を必要とする。」
  公共事業予算が削減されておりますが、このような時こそ、効果のある事業を低コストで行う技術力が求められます。しかし、港湾・空港の技術者は単に低コストを追及するのではなく、ご紹介いたしました廣井勇の精神を今一度念頭においていただければ幸いです。さらに、土木工学の分野は経験工学といっても過言ではありません。繰り返しになりまずが、双務性の確保はもちろんのことですが、皆様とのより一層の意見交換が必要と感じています。

  貴協会並びに会員の皆様のご活躍とご発展を祈念申し上げて私の挨拶とさせていただきます。